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東京地方裁判所 昭和44年(手ワ)3378号 判決 1970年9月08日

原告 金村博司

右訴訟代理人弁護士 大森正樹

被告 寺部ちとせ

右訴訟代理人弁護士 佐藤光将

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、申立

(一)  原告

「被告は原告に対し金二〇万円およびこれに対する昭和四四年九月一二日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(二)  被告

主文同旨の判決を求める。

二、主張

(一)  請求の原因

1  原告は被告振出にかかる次の小切手一通を所持している。

金額  金二〇万円

支払人 大東京信用組合高円寺支店

支払地・振出地 東京都杉並区

振出日 昭和四四年九月一〇日

振出人 被告

持参人払式

2  原告はこれを昭和四四年九月一一日支払のため呈示したが、支払を拒絶され、支払人をしてこれに呈示の日を表示し日付を附した支払拒絶宣言を記載させた。

3  よって原告は被告に対し右小切手金およびこれに対する呈示の翌日以降完済まで法定の年六分の利息の支払を求める。

(二)  答弁

原告主張事実中呈示および支払拒絶の点は認めるが、本件小切手を被告が振出したことは否認する。その余の点は知らない。すなわち、本件小切手は被告が昭和四四年七月二三日訴外マルマン商事に対し債務支払のため金額欄を記載し、振出人欄に署名押印しておいたところ、右マルマン商事から小切手でなく現金で支払ってもらいたいと連絡を受け、そうすることになったので本件小切手は不要となった。そこで被告は右小切手用紙をひき裂いて被告方住居の二階の机の上に放置しておいた。ところがその直後、被告方家人の留守中訴外清沢チヨが被告方に無断侵入して、これを盗み出し裂けた部分をのりで貼り合わせた上流通においたものである。したがって本件小切手は全く被告の意思にもとづかずに流通におかれたものであるから、被告が振出したものとはいえない。

理由

一、本件小切手を被告が振出したとの原告主張事実についてまず検討する。本件小切手の振出人の署名捺印を被告がなしたものであることは当事者間に争いがない。しかし、これが流通におかれた経緯についてみると、証人清沢チヨは、本件小切手は被告の夫である寺部貞太から清沢チヨが借りたものであると供述し、甲第二号証にも同旨の記載があるが、これらは後記証人寺部貞太の証言および乙第三号証の記載に照すと信用することができず、他に本件小切手が被告の意思にもとづいて流通におかれたことを認めるにたる証拠はない。かえって、証人寺部貞太の証言およびこれにより真正に成立したと認められる乙第一、第三号証と原告本人尋問の結果を総合すると、本件小切手は昭和四四年七月二三日被告が訴外マルマン商事への債務支払のためその金額欄を記載し、振出人欄に署名捺印しておいたところ、マルマン商事から現金で支払ってくれるようにいわれたため、そのようにすることとなり、本件小切手は不要となったので、その中央部分をたてに四分の一ないし半分位まで破ったまま被告方住居の二階の机の上に放置しておいたこと、その頃たまたま被告方を家人の留守中に訪れた清沢チヨがこれを無断で持ち帰って保管していたが、同人は原告から借金の返済を迫まられていたため、同年八月二〇日過ぎに窮余これを裂けた部分を一応のりで貼り合わせた上原告に交付したが、その際清沢は原告に振出人である被告に連絡されては困る、同年九月一〇日までに現金で返済するからそれまでこの小切手を振込まず、担保として預ってくれるように言ったものであること、しかし清沢は結局右期限までに現金で返済することができなかったので原告は白地であった振出日を同年九月一〇日と補充した上本件小切手を振込んだものであること、以上のような事実が認められる。したがって被告が本件小切手をその意思にもとづいて何人かに交付したことが認められない以上、被告がこれを振出したものということはできないから、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである。よって訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 白石悦穂)

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